ご挨拶
カンボジアで学校保健プロジェクトに取り組むようになったきっかけは、2017年頃、日本財団の方がミャンマーの大臣ご一行を東京学芸大学の附属学校に案内する機会があったことに遡ります。そこでミャンマーの大臣よりミャンマーの国境近くで若者の性と薬物の問題が起きているので、その地域の学校で学校保健を教えることができる人が東京学芸大学にいないか、という話があったそうです。その時に案内していた国際課の課長から、私にそのような依頼があることを伝えてもらいました。当初は、ミャンマーの学校で学校保健を導入するプロジェクトとして、いくつかのアイデアをもって日本財団の森常務と当時担当されていた大谷さんを訪ねました。
ところが、ミャンマーは政情が怪しくなり、理解のあった大臣も交代されるとのことで、ミャンマーよりカンボジアのほうが、プロジェクトを展開しやすいという話になり、カンボジアでプロジェクトをやってみようという話でまとまりました。
2018年に初めてカンボジアに渡航し、プノンペン教員養成大学、コッコンの小中学校を訪問させてもらい、少しずつカンボジアと関わっていくようになりました。2019年にもカンボジアを訪問し、カンボジアで活躍されている日本人に会う機会があり、そのバイタリティに圧倒されたことも印象深く記憶しています。
ちょうどカンボジアでは、小学校、中学校、高等学校で学校保健を導入することが政策的に決まっており、プノンペンとバッタンバンの教員養成校が教員養成大学に昇格し、小学校課程で学校保健の授業を必修にすることが決まっていました。また、中学校課程で学校保健コースを設立する計画が持ち上がっていました。私たち東京学芸大学のチームがカンボジアで学校保健を導入するには、ちょうどよいタイミングでした。何事も運をつかまなければ、新しい事業を実施することはできません。日本財団のおかげで、「運」を掴んだ瞬間だと思っています。
2020年から日本財団の助成を受けて、プノンペンとバッタンバンの教員養成大学の小学校教員養成課程4年生に学校保健の授業を行うための教科書作りに取り組むことになりました。教科書づくりは、大勢の方の協力を得て2023年3月にクメール語版を完成させることができました。
今後さらに、教員養成大学で学校保健を導入し、発展させていくためには、教科書の作成を越えて、プノンペンとバッタンバンの教員養成大学と東京学芸大学の間で、学術交流をより深めていく必要があると考えています。学校保健の研修に参加している教官と学校保健にかかわる研究活動の推進を協働で実施したり、教員養成大学における保健室を中心とした学生の健康増進活動を展開したり、学校保健を学びたい学生を中心とした交流を行うなど、活発に交流できることを願っています。
東京学芸大学
特命教授 朝倉 隆司